高山環境で急激に発生する洪水は、その誘発機構に降水、氷河地形、地表水動態、突発的な地形変動の相互作用が関与し得るため、予測が困難な場合がある。本研究では、2026年8月26日にネパールのランタン地域で報告された洪水事象について、複数センサーによる衛星観測を用いた遡及的評価を提示する。目的は、事象発生の数日前に、リモートセンシング観測によって関連する可能性のある環境変化を特定できたかを明らかにすることであった。ERA5-Land降水量、Sentinel-1合成開口レーダー(SAR)、Sentinel-2マルチスペクトル画像、MODIS積雪観測、GLIMS氷河インベントリ、JRC全球地表水データセットを使用し、Google Earth Engineに基づくワークフローを構築した。解析は、降水偏差評価、恒常的水域のスクリーニング、氷河インベントリのスクリーニング、発生源候補の特定、SARによる擾乱解析、光学観測による検証、時系列的な前兆解析、遡及的な早期警戒スコアリングからなる逐次的ワークフローに従った。2026年8月1~21日の累積降水量は322.14 mmであり、2020~2025年の平均336.44 mm、標準偏差44.10 mmと比較すると、偏差は−14.31 mm、標準化偏差は−0.24であった。したがって、事象発生前の累積降水量は、選択した基準期間と比べて異常に多くはなかった。一方、独立に選定した発生源地点から約1.96 km離れた氷河域では、複数センサーによる顕著な変化が確認された。GLIMS氷河の最有力候補はインベントリ上の面積が2.23 km²であり、その表面の約2.16 km²で、定義したSAR変化シグナルが認められた。その結果、影響を受けた割合は約97.08%となった。発生源域の直接解析でも、NDSI、NDVI、MODIS由来の積雪指標に変化が示された。遡及的早期警戒指数は事象発生前の数日間に大幅に上昇し、発生5~3日前の期間に最大スコア44.51に達した。しかし、事前に定めた強い前兆の閾値である60には達しなかった。したがって、事象発生の数日前に検出可能な複数センサーの前兆シグナルが存在したことが結果から示されたが、利用可能な観測データとヒューリスティックな指数だけでは、信頼性の高い実運用上の早期警戒能力を実証するには不十分であった。本研究は、SAR、光学、熱・積雪、降水、氷河インベントリ、地表水の各情報を共通の地理空間フレームワークに統合することの潜在的価値を示す。さらに重要な点として、データが乏しい地域で急激に発生する山岳洪水事象を遡及的に調査するための再現可能なワークフローを提供する。
https://doi.org/10.31223/x5kb85